クールな御曹司と愛され政略結婚
「またなにかありましたらお声がけください」

「はい、ぜひ。ねえそれ、もしかして野々原さんからですか」



エントランスを見下ろせる吹き抜けの二階にある、しゃれた商談スペースで、吉岡さんが私を見ながら自分の胸元を指してみせた。

灯からもらったペンダントだ。



「あ、はい」

「いいなあ。それ、私も好きなシリーズなのでわかるんですが、秋の新作ですよ、どうやって手に入れたんだろう」



えっ、そうなんだ。

灯ってば、なにも言わないから、知らなかった。



「シリーズの意味、知ってます?」

「意味?」

「時計版がモチーフでしょ。そのシリーズにはね、"永遠の時"っていうメッセージがあるんです。奥さんにそれを贈るなんて、最高ですね」



ペンダントトップを右手でいじりながら、うまい返事が思いつかなかった。

もらったときに言われた言葉が言葉だけに、かなり恥ずかしい。

頬が熱くなってくる。



「た、たぶん、野々原はそこまで、知らないと思います…」

「今度聞いてみてください」

「はい…」

「御社がすてきなCFを作ってくださってよかった。次回もビーコンさんでという声もあるので、またご一緒させていただくと思います」



意味ありげな視線を投げて、にこっと微笑む。

私は、つらかった撮影中を思い出して身の縮む思いをしながらも、心の奥底から、なにくそという闘争心が湧いてくるのを感じ、なんとか笑い返した。


誰にも渡さないんだから。

灯は私のものなんだから!


 * * *


「よし、これで全部かな」



寝室でチェックリストを見ながら、かなり大きめのスーツケースを閉じる。

灯も横で、同じサイズのスーツケースの荷造りを終えたところだ。
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