クールな御曹司と愛され政略結婚
慌てて口をふさがれ、私も思わず発した自分の言葉に汗が出た。

さいわい夏休みを取っている人が多く、デスクには誰もいない。



「灯さん、ROMって4枚で足りましたかね?」

「わー!」



いきなり声をかけられ、ふたりで叫び声をあげる。

木場くんがぽかんと、そんな私たちを見ていた。



「あっ、DVですか、通報しますか?」

「違う!」

「あのー、ROMは」

「DVDとブルーレイ2枚ずつ、ラベルはきっちり書けよ」

「はいっ、あ、灯さん」



フロアの外に走っていきながら、木場くんがくるっと振り向いた。



「いくら夫婦の間柄だからって、しつこいのは嫌われますよ!」



私が灯に、ものすごい形相でにらまれたのは言うまでもない。


 * * *


「今回のCF、社内ですごく評判がいいんです」



納品に行った先で、クライアントの吉岡さんが晴れやかに笑った。

改めて見ると、そう姉にも似ていない。

私が気にしすぎていたんだなあ、と反省した。



「そう言っていただけると嬉しいです。こちらが納品用のテープ、あとこちら、メイキングの動画データです、ご確認ください」

「ありがとうございます、オンエアと同時にwebにアップしますね」



吉岡さんが納品物の内容をチェックし、「受領しました」と言ってくれる。

毎度のことながら、ほっと肩の荷が下りた。

これですべて完了だ。
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