クールな御曹司と愛され政略結婚
すでにダブルサイズのベッドの上は、絵コンテや前回のオーディションの資料で埋め尽くされている。

その隙間にお互い座り込み、それぞれ膝にPCを置いて、メモを取りながらひたすら動画をチェックする作業が始まった。

30分ほど経過した頃、灯がつぶやく。



「なんとかいけそうだな」

「念のため、時間ぎりぎりまで集め続けてもらうのがよさそうだね」



朝7時には阿部くんともその認識を共有し、現地に連絡を入れた。

その間もオーディションをリアルタイムで見るための環境を整えたり、求めている役者像をキャスティング会社と再確認したり、更新されてくる動画をチェックしたり。

お昼前には現地でのオーディションが始まり、それは夕方まで、すなわちLA時間では深夜まで続いた。


これという人が見つかったのは、本当にラッキーだった。

容姿、演技力とも申し分ない。

録画しておいた演技の動画を灯と繰り返し見て、阿部くんともじっくり相談し、その人に決定する。

クライアントにも報告を入れ、すべてが片付いた頃には夜9時になっていた。


ベッドにいると寝てしまうという理由で、途中からリビングに場所を移した私と灯は、新品の革のソファに突っ伏して、声も出せないほど疲弊していた。

何時間寝ていない?

40時間くらい?



「腹減った…」

「なにか取ろうか」



冷蔵庫は空っぽなのだ。

買い出しに行くタイミングもなかったので、2回出前を頼んだのだけれど、そういえば最後に食べたのは昼過ぎだったかもしれない。


灯がむくっと起き上がり、廊下へ出ていく。

寝るんだろう。

私も完全に、空腹より眠気が勝っている。


ふらふらと後を追って寝室に入ると、灯はもうベッドに入っていた。

脱ぎ捨てたシャツとスエットが床に放り出してある。
< 34 / 191 >

この作品をシェア

pagetop