クールな御曹司と愛され政略結婚
灯はまた、吉岡さんを車に乗せて消えた。

彼女の帰り道は、代理店の営業さんが送っていくはずだったのに。


ホテルは明日の朝のチェックアウトまで確保してある。

会社の車で来ていた私は、仮眠を取ってから帰ろうと、ホテルに戻った。

部屋に入ってから、夕食を買ってくるべきだったと気づいたものの、もう一度出るのも億劫だし、帰りがけでいいやと空腹を忘れることにした。


気づくと靴も履いたまま、ベッドに仰向けに倒れて寝ていた。

腕時計を確認すると、一時間ほど意識を失っていたらしい。

急に覚醒したため、ふらふらする頭を振って、飲み物を買いに部屋を出る。


中級のビジネスホテルの、毛足の短いカーペットを踏んで、廊下の隅にある自動販売機に向かう。

エレベーターの前を通り過ぎようとしたとき、ちょうど扉が開いて、驚いたことに灯が降りてきた。



「よお、お疲れ」

「あれ…なんで? 吉岡さんは?」



送っていって、そのまま帰るコースを取ったのかと思っていた。

ぽかんとする私に、灯が不思議そうに首をかしげる。



「駅まで送ってっただけだ。電車のほうが帰りやすいらしくて」

「そうなんだ」



よかった、と言いそうになり、慌てた。



「えーと、気に入られてたね、灯」

「ほんと参ったぜ、指輪って案外、効果ないんだな」



えっ、どういうこと。



「そんなに本気で誘われたの?」

「あれは不幸体質だな。奥さんいる人好きなんです、だってさ」



そんなこと言われていたのか!

まさかそこまで露骨にアプローチされていたとは思わなかった。
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