クールな御曹司と愛され政略結婚
「誰が相手か…言ったの?」

「昨日な」



灯がくたびれた息をついて、自分の肩を揉む仕草をする。



「この業界浅いらしくて、俺らの話も知らなかったから、内輪プロジェクトみたいな先入観持たれたくなくて、黙っていようとも思ったんだけど」

「でも言ったんだ」

「だって、嫁が大事なんでっていくら言っても聞かないんだぜ。もう、当人が目の前にいるって教えるしかないだろ」



うわあ、じゃあ今日は、私が灯の相手だと知った上で現場に来ていたのだ。

態度に出さずにいてくれたあたりは、さすがと言うべきなのか。

クライアントとしての仕事はきっちりこなしていたし、なんというか、ちゃんと切り替えてくれていたんだな、彼女なりに。



「灯がいい顔すると、ほんとみんな落ちちゃうよね…」

「俺が悪いみたいな言い方するな」

「そんなこと思ってないけど」



でも、灯が灯である限り、これからもこういうことが続くんだろうなとは思っている。

いちいち動揺しないようにしなきゃな、と腹をくくろうとしていると、ふいに灯が私の顎にさわった。



「なんだ、もしかして面白くなかった?」



くいと上向けられ、楽しんでいるような視線に見下ろされる。



「…なかったよ」

「なら、もっと出せばいいのに」

「現場でそんなこと、できるわけないでしょ」

「別に俺、ことさらに彼女になにかした記憶、ないけど。なにがそんなに気に入らなかったんだ」

「だって」



言いかけて、心が揺れた。


だって。

その先を、言ってしまうの、私?

言ってどうなるの?
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