クールな御曹司と愛され政略結婚
続きを促すように、灯がほんのわずか、眉を上げる。

そうされると、私の妹の部分が、ねえ聞いてって勝手にしゃべりだしてしまう。



「あの人、お姉ちゃんに似てた…」



涙がにじんできたのを、気づかれないようにまばたきをこらえた。

灯はほとんど表情を変えず、ただすごく突飛な名前が出てきたことに面食らったような、そんな様子をわずかに見せて、私の顎から指を外した。



「そうか?」



私はバカだ。

灯がどう答えようと、満足なんかしないくせに。

否定されても肯定されても、傷つく気だったくせに。


転がり落ちそうな涙の始末に困って、そのまま立ち去ってしまおうかと考えたとき、灯の手が頭の上に乗せられた。



「お前、そんなに要子にコンプレックスあったか?」



優しく笑って、よしよしとなでる。

何年ぶりだろう、灯の口から姉の名前を聞いたのは。

本物のなにかに刺されたように胸が痛み、すねた感情をわからずやの灯に向けることでそれをごまかした。


そうじゃないよ、バカ。

ううん、そうなんだけど、それだけじゃないんだよ。


頬を伝って、顎からぽたぽたと滴が垂れる。

灯が涙の道を切るように、私の頬の真ん中あたりを、ぐいと指でなでた。


その指に顎を持ち上げられて、状況を理解する前に、唇が重なってきた。

泣くことないだろ、って優しい声が聞こえる気がした。


残念ながら涙はまったく止まらず、むしろ増える始末で、それを見た灯が、ちょっと困った顔になる。



「私、灯のこと好きなの」



涙で灯の顔が歪んで見えた。



「…言ってなかったけど」
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