クールな御曹司と愛され政略結婚
見上げる先で、目がだんだんと見開かれて、驚きの色が浮かぶ。

なにか言ってよ、とせっつきたくなってくるころまで灯はただ驚いていて、やがてふっと弾けるように笑うと、もう一度、明らかにさっきよりしっかり唇を合わせてきた。



「言われてなかったなんて、今気づいた」



なにその満足げな声。

片手で私の肩を抱き寄せて、のぞき込むようにキスを落とす。

だんだんと噛み合わせが深くなって、唇は開きっぱなしになって、間を舌がちらつく。


ねえ、灯もわかっていると思うけど、キスするの、結婚式以来なんだよ。

笑っちゃうね。



「お前の部屋、どこだ」

「え?」



耳を噛まれて、肩をすくめた。

歩いてきたほうを指して、「すぐそこ」と教えると、意を得たりとばかりに灯は私をなかば引きずるようにして、そちらに向かった。

キーを出させてドアを開け、ずかずかと室内に入って私をベッドに放り投げる。



「えっ、ねえ、灯」

「シャワーなら、後で一緒に浴びようぜ」



覆いかぶさってきた灯が、顔じゅうにキスを浴びせながら私の脚を抱え、スニーカーを脱がせ、ついでに靴下も剥ぐという色気のない行為をした。

ひとりでできない子供になったような気分で、灯の身体を押し戻す。



「あの、ここでするの」



しー、と灯が人差し指を立てた。



「このホテル、普通にしゃべってるだけでけっこう聞こえる」



思わず口を押さえた。

クライアントやタレントと違い、スタッフはグレードの低いホテルに詰め込む。

灯といえど例外ではなく、そうやって浮かせたお金を製作費に回す。
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