クールな御曹司と愛され政略結婚
「おじさん、わざわざ休み取ったんでしょ」

「みたいだな、平日なのに家にいるからびっくりした」

「お母さんが灯に会いたがってるの、夜はうちに来てよ」

「義実家に行くのがこんなに楽でいいのかな」

「ねえ、物理的にも気持ち的にも」

「なあ」



とりとめのない、だけど灯としかできない会話をしながら、私は案外、幸せに近いところにいると実感した。





「和室にお布団並べるから泊まってけだって。なに考えてるのうちの親」

「さすがにそれは遠慮したい…」

「ほんと灯のこと好きなんだよね、お母さん」

「わ、なんだこれ」



私の部屋で、本棚を眺めていた灯が、下のほうでなにか発見した。

こちらに持ってきたのは、私が小学生の頃夢中だった少女漫画雑誌だ。



「あ、それね、私が送ったハガキが載ってるから、記念にとっといてるの」

「小道具かと思ったよ」

「そうだ、美術部に寄付しようかな」



年代物の雑誌というのは、わりと撮影用のニーズがあるのだ。

ベッドの私の横に腰かけて、灯がぱらぱらとページをめくる。



「目がでかい」

「あ、ほらここ。ペンネームYUIちゃん、東京都」



ページの端の柱部分に、小学4年生の私が描いたイラストがある。

たいしてうまくもないけれど、ファンとしての熱意が採用されたんだろう。



「大好きだったんだよね、この漫画。おさな…」



ざらざらした一色刷りのページを見ながら語りかけて、飲み込んだ。

灯が不思議そうにこちらを見る。
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