クールな御曹司と愛され政略結婚
「なんだ?」

「ううん、主人公たちがご近所同士の話なの、幼なじみで」



簡潔に説明して、雑誌を取り上げた。

大好きな幼なじみのお兄ちゃんと同居することになって、ドキドキのラブハプニングが起こりまくる漫画だなんて、私の口からはとても説明できない。

別にこれを読んでいた当時は、クラスに好きな子もいたし、灯に対して特別な感情なんてなかったけれど。

灯は私の態度を不審がる様子もなく、「ふうん」と脚を組む。



「自分たちを"幼なじみ"と呼ぶことって、意外とないよな」

「あ、わかる」



幼なじみという言葉は定義があいまいで、結局あれこれ補足するはめになるので、灯との関係をそう説明することは、実はあまりない。



「唯子ー、おやつの用意できたわよ」

「はあい、今行く」



階下から母の声がした。

さっきから下がにぎやかなのは、灯のお母さんがタルトを持ってきたからに違いない。

私は雑誌を本棚に戻しながら、灯に釘を刺した。



「うちの親の前で、根に持った発言しないでよ」

「お前の反省の状況次第だなあ」

「してるってば、イベントからのロケで、疲れてたの、あのときは!」

「ちなみにどの段階で寝た?」



うっ、と返答に詰まる。



「実は、相当序盤で…」

「だよな」



最後の一枚を脱がされた記憶すらない。

後ろから抱きしめられて、手を握ってもらったら、あったかくて重くて、すっかり安心して一瞬で眠りに落ちてしまったのだ、おそらく。

子供か。
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