恋色流星群
 

会場に寄れるギリギリの場所で、タクシーを降りたら。
地下鉄から噴き出した、波みたいな人の流れに巻き込まれた。


ペンライトに、タオルに・・・旗??
高揚した人たちが纏う色とりどりの応援グッズ?に目を奪われながらも。
『まだこんなに外に人がいるなら安心♡』 と一息ついた。


会場が見えてきて、現れた大きな階段をノロノロと周りに合わせて登っていると。

人だかりが、綺麗に避けて一箇所だけぽっかり穴があいてる。
激流だった水の流れが、ある一箇所にぶつかって綺麗に二方向に分かれていくみたいに。




その真ん中で、首から掛けたタオルを両手で乙女握り、しているのは。




『葵ちゃん!何その格好!』

「遅いわよ!チンタラ歩いて来てんじゃないわよ!!」




如何にも、な。
純白のスーツに、赤いポケットチーフ。
スキンヘッドに被せた、小ぶりなハットには生花の赤い薔薇。
Diorの大きなサングラスと、小脇に抱えたセカンドバッグ。
握り締める、首から掛けたタオルには、行書体で「planet」。
よく見たら、三枚重ねていた。

ちょっとした怖い人にしか見えない。
私でも、避けて歩きたくなるわ。



「だいたいあんた、思ったとおりの感じで来たわね!」

『思ったとおり?ちゃんとすっぴんじゃないよ。』

「あんたがそういうラフな感じにすると、なぜか芸能人のオフショット♡的な雰囲気になるのよ・・・。
逆に目立つの!もう何もかもむかつくわ!」

『濡れ衣だ。笑』

葵ちゃんは、急にハッとした様子で「ガチャガチャ・・・」と呟いて歩き出した。







女子の人集りができている一角へ。
鼻息荒く葵ちゃんが登場すると、女子たちはみんな伏し目がちに散り散りになって消えた。


『葵ちゃん、絶対反社会的勢力の人と思われてるよ。』

「今日はね、10回しかしないって決めてるんだ!♡」


私の呆れ声も全く耳に届かない、浮かれっぷり。
結局葵ちゃんは、その“ガチャガチャ”とやらに、血眼で20回ほど挑んで。
ひよこの雌雄を瞬殺判定する鑑定士のように、目にも止まらぬ早さで生まれてくる卵を選り分けた。


目的は、どうやらただ一人の人。
それ以外は、無言で私にパスしていく。
あれ、これはチョコかな??と思うのが一つあったから。
こっそり、自分のバッグに入れた。


20個目で、剛田大が現れた時には。
涙目になりながらも、無言でセカンドバッグに押し込む姿が、少し笑えた。
< 288 / 311 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop