待ち合わせはあのカフェで



俺が軽くお辞儀をすれば、神谷さんも軽くお辞儀をした。



「涼太君はこんな時間まで何してたんですか?」

「ダンスの練習です」



って、え、ちょっと待って。
何で…



「俺の名前、」

「すいません、間違えてました?」



申し訳なさそうな声のトーン。

いや、間違ってない。
合ってるけど、そこじゃなくて、えっと、その…
頭の中が混乱している。



「いや、合ってます。合ってるんですけど、なんで名前…」



神谷さんに名前を言った事は一度もない。
だって、俺と神谷さんは客と店員だから。



「いつも一緒に来てるお友達に、涼太って呼ばれてるの聞いてて」

「じゃあ、その友達の名前も…」

「覚えてます。陸人君」



今度は、さっきとは違う明るい声のトーン。



「すいません。勝手に名前覚えて」

「いや、全然。そんな事ないです」



自分から言わなくても名前を覚えてくれてたなんてむしろ好都合だ。



「あの」

「はい」

「これ、売れ残りで大変申し訳ないんですけど良かったらケーキ食べますか?」



小さいケーキの箱を俺に見えるように差し出す。
ケーキの持ち帰りもやってるんだ。



「涼太君がいつも注文するいちごのショートケーキは入ってないんですけど」



俺がいつも注文するもの覚えてるとか
神谷さん記憶力よすぎ。



「いちごのタルトと紅茶のシフォンケーキ、嫌いじゃなければ…」

「いただいていいんですか?」

「はい。いつも来てくれますし、たくさん声かけていただいて感謝してます」



感謝とか…俺だってしてる。
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