黒胡椒もお砂糖も


 一度エレベーターホールで平林さんの姿を見かけたけれど、ずっと携帯で会話中でシステム手帳は開きっ放しのようだった。

 いつもの愛想のいい笑顔は封印して眉間に皺をよせ、駆けずり回ってるようだったから、勿論声はかけられなかった。

 私はこっそりとその場を離れたのだ。

 平林さんと同じく高田さんも多忙を極めていたらしい。いつ覗いても第2営業部はガラーンとしていて、支部長だけが机について書類に判子を押していた。

 ・・・ううむ、正しい姿だ。うちの第1営業部に昼間っからこれだけの職員が居て、笑い声が響いているのがおかしいのだろう・・・。

 去年の12月に新規で開拓した不動産屋から子供の学資保険とがん保険をラッキーなことに立て続けに頂けた私は、主力商品は皆無ではあったけれども、一応件数は4件に達し、直属の上司を喜ばせた。

 自分の部下から一人でも多く叱責組みから脱出させることを肝に命じているらしい担当の副支部長は、目の下にははっきりとクマが出来ていた。

「良かったわ~・・・尾崎さんは脱出ね。あとは主力商品を入れないと、お給料にはならないからそれは頑張って欲しいけど」

 盛大なため息をついてそういう副支部長の肩を揉んでやる。

「お疲れ様です。私、最近体調もいいからツキもきたようで」

 そう言うと、それは素晴らしいわ!あやかりたい、と私に抱きついていた。4つ年上の副支部長は、明るい性格だ。


< 156 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop