そして目覚めの口づけを
「……うん」


貴志さんはお掃除スティックを垂直に立てて、そこに両手を乗せ、徐に語り始めた。


「俺、君に嘘を吐いてしまっていたんだ」


その立ち姿がまぁ何ともサマになること。


「前に指摘されたよな。『あの髪型や眼鏡や服装は変装なんだろう』って。その時は否定したけど、実はそうだったんだ。いや、自分自身自覚していなかったんだけど、後からじっくり考えてみて、ふとその事実に気が付き、久方ぶりにアルバムを開いて確証を得た」

「…え?アルバム?」

「あの男にそっくりだったから」


心ここにあらずの状態で機械的に問い掛けた私はその返答にギョッとした。


「生物学上の父親、隅谷文也の若い時分に瓜二つだったんだ。つまり俺が物心つくかつかないかの頃の奴のビジュアルに。きっと深層心理がそれをきちんと記憶していて、年を重ねる毎に酷似して来る自分自身がおぞましく、必死に遠ざかろうとしていたんだと思う」


とっさに言葉が返せない。


「でも、それでもやっぱりこれが俺の真の姿だから…」


その間に、貴志さんは粛々と話を進めた。


「君の前でだけは嘘偽りのない、ありのままの自分でいようと思い至ったんだ」

「え、えっと、それは、このマンションの中だけってことですか?」


何故突然貴志さんにそのような心境の変化が訪れたのかも気になったけれど。
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