私、今から詐欺師になります
 



「それでは、失礼致します」

 今日は少し遅くまでかかったな、と思いながら、茅野が穂積に挨拶をすると、穂積は封筒を渡しながら、
「今日は少し多くしといたぞ。
 頑張ったからな」
と言われる。

 はいっ、ありがとうございますっ、と茅野はその封筒を大事に胸に抱く。

「……このあとは暇か?」

「はい。
 特に用事はございません。

 秀行さんは、今日は会食があるそうなので」

 夕刻前、秀行は本当に職場を覗きに来た。

 同業種なので、敵情視察みたいに見えるからやめて欲しかったのだが。

 二言三言、出てきた穂積と話し、席を立たずに、仕事をしていた茅野の頭を軽くポンポンして帰っていった。

「そうか。
 じゃあ、食事にでも行くか」

「はい。
 でもあの、この間から、気になっていたのですが。

 これは、詐欺でないとすると、世に言う浮……」

「気のせいだ」

「世に言う浮気というやつで……」

「気のせいだ」
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