私、今から詐欺師になります
 



 茅野は、あのとき、秀行に離婚を切り出した喫茶店で穂積を待っていた。

 わずか数日前のことなのに、もうずいぶんと時間が経った気がしている。

 自分の生活に、仕事もなく、穂積たちが居ない状態というのが、既に想像できなくなっているからだ。

 だが、さっき、自分で発しようとした言葉が気になっていた。

 これは世にいう浮気というやつでは、というあれだ。

 ……秀行さんのことは、たぶん、人間的にはそう嫌いではないし、私に対する嫌味や嫌がらせもお友だちとしては、許せる範囲だけど。

 男の人として、愛しているかと問われたら違うから。

 ストローでアイスティーの氷をつついていると、穂積が現れた。

 その姿を見ただけで、やはり、どきりとしてしまう。

「待ったか?」

 いえ、と茅野は彼を見上げて微笑む。

 そうやって自分の許に来る穂積の姿を見ているのは嬉しい。

 だけど、これが、詐欺でも浮気でも。
 どちらも一時的なものだ。

 いつか終わりが来るんだろうな、とは思っていた。





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