私、今から詐欺師になります
 



 穂積のマンションはその海沿いの道から近い場所にあった。

 穂積が灯りをつけると、モデルハウスのような部屋が現れる。

 誰も住んではいない感じに片付いていて、無駄なものが一切ない。

「あの、誰が片付けるんですか? この部屋」

 誰か女性の方が? と思う。

 プロの人間が掃除したのではないかと思う几帳面さだったからだ。

 穂積はいつも忙しいはずなのに。

「あまり家には居ないから散らからないな。
 物を出しても、すぐに片付ければ、部屋は汚れないし」

 うう。
 耳が痛い……と茅野は両耳を押さえる。

 その姿に穂積は、くすりと笑い、
「その辺に座っとけ」
と言ってきた。

 キャメルの革張りのソファにそっと腰を下ろすと、
「珈琲でいいか?」
と穂積が訊いてくる。

「あ、はいっ」
と言いかけ立ち上がり、

「私がやりますっ」
と茅野は言った。
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