私、今から詐欺師になります
 



 結局、一日働いてしまった……。

「茅野ちゃん、穂積……社長が呼んでるー」
と玲に言われ、給湯室を綺麗にしていた茅野は、はーい、と慌てて駆け戻る。

「お疲れさま」
と肩を叩いてくれる玲の口調も笑顔も、昼間、此処に来たときとは違い、随分柔らかくなっていた。

 肩に手を置かれたまま、茅野は、玲の顔を見上げていた。

 本当に綺麗な人だ。

 ……が。

 茅野は自分の肩をつかむ玲の手をつかんで、マジマジと見た。

「なに茅野ちゃん。
 手相でも見るの?」

「いえ……」

「大丈夫よ。
 『ただの趣味』だから」
と微笑み、さあ、行きましょう、と玲は茅野の肩を抱いて、社長室へと向かわせた。




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