私、今から詐欺師になります
 


 ノックをしたあと、玲は茅野だけを中に入れ、ドアを閉めた。

「茅野」
とデスクから顔を上げて、穂積が言う。

 なんでだろうな。
 この人に呼びかけられると、それだけで、どきどきするのは。

 声があまくてよく響くからだろうか。

「どうする?
 このまま、此処で働いて、七億稼ぐか?」
と穂積が笑う。

 あ、莫迦にしてますね、と思いながら、穂積の前まで行った。

「それとも、路上に出て、その辺の男をナンパしてくるか。
 計算してみたんだが、この近辺で、金持ってそうな男を、七人くらいつかまえたら、軽くいけるんじゃないのか? お前なら。

 それか。
 普通の生真面目そうなサラリーマンから、一、二千万ずつもらうとか」

 いや……計算してみるな、と思いながら、茅野は言った。

「最初の穂積さんで失敗しちゃって、もうそんな気力はないです」
と苦笑いすると、

「失敗したかどうか、なんでわかる?」
と言ってきた。

「え」
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