サガシモノ
最初はなにもわからない所から始まったけれど、今ではあたしたちの手の中にいろんなヒントが転がっていた。


「じゃぁ、また明日な」


家の前まで来て、健が手を振る。


「うん」


あたしは玄関を開けようとして……振り返り、健の腕の中に飛び込んだ。


夏休みは健と色んなことがしたいと思っていた。


付き合って初めての夏休み。


もう少し女っぽいところを見せて少しだけ進展できたらな、なんて。


甘い事を考えていたっけ。


それがいつの間にかこんな夏休みになってしまって、健と2人きりになる時間も全然なくて……。


胸の奥が苦しかった。


あたしは近藤先輩から聞いた話を黙っていれば、こんな夏休みにはならなかったかもしれないと、ずっと思っていた。


「おい、咲紀?」


戸惑ったような健の声が聞こえて来る。


あたしはしばらく健の腕の中で身を震わせて、そして笑顔で顔を上げた。


「えへへ、ごめんね。驚いた?」


そう言って舌を出す。
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