私に恋してくれますか?
夜11時を過ぎた頃、両親が帰宅した。

父は少し酔って、母の肩に手を回している。

父はこの日野家の長女だった母を見初めて、
祖父に認められるよう努力をし、
親の決めた婚約者がいた母の婚約を破棄させ、結婚した。
結構、強引で、デキる男。と言われているらしい。
今でも母をとても愛しているらしく、
娘の目から見てもとても仲が良いんだけれど、
何せ頑固だ。
自分が認めた相手の話しか聞かないし…。

私が出迎えると、ちょっと驚いた顔をしたけど、
すぐに、お見合いの話の事だって、わかったみたいで、
「ヒナコ、私はお前が心配だ。」と顔を見るなり、父はそう言った。
「私はもう、24です。結婚相手は自分で決めます。」と私が言うと、
「もう、24歳なのに、ボーイフレンドもいないんじゃないのか?
お見合いして、気に入ったら、付き合ってみればいい。」と寝室へと続く階段を登って行く。
「私は好きになった人と結婚したいです。」と父の後ろを付いて歩く。
「ヒナコの結婚相手は誰でもいいという訳じゃない。
お前を養って、守ってくれる相手でなければ、結婚はさせられない。
最近の若者は共働きと言うスタイルをとっているらしいが、
ヒナコにそれが出来るのか?
私はお前の身体はそんな生活に耐えられるとは思えない。
いくら、主治医がもう、普通の生活をって言っても、
今まで、お手伝いさんのいる生活をずっと送ってきているんだ。
これからも、生活をサポートしてもらえる暮らしが必要だ。」
と父は寝室の前で私を振り返る。
「お兄様のお付き合いをしている方は普通の方です。
お姉様の恋人だって、普通のサラリーマンだっていっています。」と私が言うと、

「ヒナコ、我儘を言うな。
お前に普通の暮らしは無理だ。」と言って寝室のドアを開けて、入っていく。

「ヒナコ、また、話し合いましょう。
お父様は少し、酔ってるのよ。」
と母は私の頬を撫でてくれたけど、父に呼ばれて静かにドアを閉めた。



私はドアの前で佇み、唇を噛み締める。

『ヒナコには普通の暮らしは無理だ。』

父の声が悔しかった。

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