もう二度と昇らない太陽を探す向日葵


「夏帆」

 彼と一日を一緒に過ごせるのはこれが最後なんだと思うと、何を話せばいいのか分からなくて口が重たくなる。

 お兄さんは、そんな私より先に口を開き私の名を呼んだ。お兄さんの方を見ると、彼はいつもと変わらない柔らかな表情で優しく笑っていた。

「最後だから。いつも通り話をしよう。今日も、夏帆とたくさん話がしたい」

「……うん。そうだね。そうだよね」

 最後だから、いつも通り話をする。

 きっと、明日の今頃には忘れてしまう。だけど、私も彼と話をしたい。お兄さんと話をしたい。脳裏に、忘れてしまわないように。硬く、深く、刻みつけるように。何でもない話も、未来の私とお兄さんのことも、どんな話でもいいからお兄さんの声を聞いていたい。

「ねえ、私、お兄さんのこと、お兄さんと私の話。お兄さんに関わる話が聞きたい。まだ、もっと、お兄さんの事が知りたい。もっと、もっと、声を聞いていたい。お兄さんが生きていた時間、どんな事が楽しかったとか、どんな事をしたとか、いつ、どんな事を思っていたのかとか。全部全部、知りたい」

「うん。分かった。それじゃあ、その後は夏帆の話を聞かせて。俺に出会う前の、今の夏帆のことをたくさん教えて。夏帆のことで知らない事、まだまだたくさんあると思うから」


 私とお兄さんは、順に自分に関する話をすることになった。明日で最後だけれど、お互いの知らない事を知る。それが、今日、私たちが刻む記憶。


「ああ、何から話そうかな」


 彼は、とても優しい表情を浮かべてそう言った。楽しそうな顔をして悩んだ彼は、口を開き、たくさん話を聞かせてくれた。


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