この冒険、なんやかんやでハ-ドモ-ド過ぎません?
あ、ワシ村長 [序章]
あ、ワシ村長。
このソルトナというチンケな村で一番ジジイというだけで村長に選ばれた男だ。
今ワシは自宅の裏庭にある茂みの中で息を潜めているわけだが、実はこれには深い理由がある。
今から約一時間前、冒険者なる3人の若い女が宿を探しているということでワシの家に訪れた。
何でも魔王討伐の為に旅をしておるとか伝説の剣を探しているとか何とか、胡散臭い事この上無しな感じだったが、この村に宿屋などは無いし何より三人とも可愛いから泊めることにしたわけだ。
『ちょっと!変なとこ触らないでよ!』
数メートル先の小窓から悲鳴混じりの声が響く。
この声は確か、アーリッヒとかいう女のものだ。
『ああ…そんな…やっぱり私のこと、気持ち悪いと思ってるんですね…』
この声は、人形のように綺麗な顔をした女で、確かミゼリアとか名乗ってたな。
そう…今、この二人の女がワシの自宅の風呂場にいるのだ。
こんな奇跡が起こるのは、ワシの人生史上初のこと。
もうあのお湯捨てない。
『だから思ってないって…。
あのラプって人がデタラメ言っただけだし、一緒にお風呂に入ってくれたら信じるってミゼリアも言ってくれたじゃん!』
『でも、触られるのは嫌なんでしょう?』
『い、嫌じゃないけど…触られる部位によるからね?』
小窓から聞こえてくる若い娘の刺激的な会話は田舎のジジイの心を踊らせる。
もう少し近づけば、僅かに開いたあの窓の隙間から楽園風景が見れるのだろう。
だが、そんな破滅と紙一重の偉業を、勇者ですらないこんなチンケな田舎の村長風情が果たせるわけがないのだ。
『じゃあ、そのスベスベのお肌を触っても宜しいですか…?』
『別に…い、いいよぉ?』
『後、嗅いでも宜しいでしょうか?』
『いや、嗅ぐのはダメに決まってんだろ』
こうやって、茂みの中じっと耳を澄ませていると、闇夜に漂う窓からの湯気がワシに問い掛けてきた。
そんなとこで何してんだ、今すぐ立ち上がって目を凝らせよ!
鼓膜だけじゃなく、網膜も満たさなければ心は満たされないだろ!…と。
『そうだな…。
老け込むにはまだ早いか…』
消えていたはずの若き日の情熱に再び火を灯らせたワシは、確信の笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がった。
『おーい、村長ー!』
『……!?』
突然の呼び声に、ワシは電光石火の如く再び茂みの中へと伏せた。
思わず声が出るところで危なかったが、多分バレてないだろう。
『どこいんだ村長ー!
酒がきれたぞー!』
葉の隙間からこっそり覗くと、一人の女がフラフラと庭に出てきているのが見えた。
そういえば、トキユメとかいう酒臭い女が一人残ってたな。
つーか、アイツが居たリビングの棚に2、3本ワインがあったはずだが、まさかもう全部飲んでしまったのか!?
バケモノかあの女…。
『おーい!!
酒だー!!酒がねぇーぞーーー!!』
おい!頼むからやめてくれ!!
静かな村でそんな大声出したら目立つから!!
だが、今出て行くわけにもいかず、ワシはただじっと身を潜めて嵐が去るのを願い待った。
『んだよー。あのクソハゲどこ行ったんだよマジでー』
おい言葉には気をつけろ。
ハゲてる村長が茂みに潜んでる可能性だってあるんだからな?
やっとで諦めて家に入って行くトキユメを見ながらワシは胸を撫で下ろした。
さて…邪魔者が消えた今、ワシを阻むモノは無い…。
クラウチングスタートの構えでターゲットである窓をロックオン。
息を調えゆっくりと腰を上げたその時…、ワシは何かの気配を背後に感じた。
見なくても分かる…。
後ろに何かおる!!
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