この冒険、なんやかんやでハ-ドモ-ド過ぎません?
あ、ワシ村長 [最終章]
一瞬にして冷や汗が背中に噴き出す。
誰かがワシの背後におる…。
独身貴族一人住まいのワシに家族はいない…。誰だ?トキユメ…?いや、ありえない…。
ワシは勇気をふり絞って恐る恐る後ろを振り返った。
『…って、誰!?』
ワシは思わず声を漏らした。
そこに居たのは庭に生えている樹木の後ろから顔を覗かせている謎の男だった。
夜空の満月に照らされたその若い男は、ジッとワシを見つめている。
『貴様、そんな所で何してる』
男は静かな声でワシにそう訊ねてきた。
『いや、お前だよ!お前が人ん家で何してんだよ!!
だいたい誰だお前は!!』
ワシが男にそう返すと、男はその言葉を待ってましたと言わんばかりに得意気に微笑んだ。
『聞いて驚くな?
僕はバルデ帝国の第三王位継承権を持つ存在…ラファール様だ!』
いや、知らんけど!!
そういえば、王族が村に来てるって近所のババアたちが騒いでたけど、コイツだったのか。
まあ、ワシは相手が王族だからってヘコヘコするような?ダサい感じの?村長じゃないからな。
その辺の村長とは格が違うからなマジで。
帝国の王子だろうが勇者だろうが魔王だろうが関係ない。
この村の頂点は……ワシだ。
『で、そのバルデ帝国のラファール様が、こんなチンケな村の村長の家の裏庭でコソコソ隠れて何してるんですか?』
とりあえず、舐められるわけにはいかないと考え、ワシはラファールに詰め寄った。
『そ、村長に…あ、挨拶をだな、しようと思ってな…。
げ、けげげ玄関を探していたのだよ…ハハハ…』
ものの見事に嘘くさいな。
狼狽え過ぎだろコイツ。
『それにだな、村長よ…。
貴様こそ、こんな時間にこんな場所で何をしておったのだ?
自宅なのに、泥棒みたいにコソコソ隠れて…』
ギクリ。
『貴様、まさか彼女らの風呂を覗こうとしてたわけではあるまい…?』
ラファールはまくし立てるように言葉を並べたが、それが仇になった。
『ほう…ラファール様は、風呂に彼女らが入っていたのを御存知でしたか』
『な…!?いや、その…』
ワシの反撃にすぐに部が悪い表情へと変わったラファールはたじろいだ。
間違いない…
コヤツもワシと同じで、風呂を覗こうとしていたのだ!!
『さあさあ!どうなされた王族のラファール殿!!
正直に申されたらどうです!?この場所に居た本当の理由を!!』
勝った…!
あからさまに狼狽えているラファールの様子に、ワシは弛む口許を隠せなかった。
『おーい、お前ら何してんだ?』
不意に、聞こえてきたその声にワシは凍りついた。
ラファールも同様にひきつった表情のまま固まっている。
そこには、いつの間にかトキユメが腕組みをして立っていたのだ。
『居ないと思ったら、こんな場所で逢い引きしてたのか?
しかも相手が男、王子様って、村長ハゲてるわりにチャレンジャーだったんだな』
違うわぁああーーー!!!!
つーか、本人を前にしても普通にハゲとか言っちゃうタイプだったんだなアンタ!!
『まあ、いいや。
お前らとりあえず家に上がれよ、ちょっと話しあっから』
いや、ワシの家!!
いつの間にか風呂場の灯りも消えていた。
終わった…
完全に…。
頭を垂れたワシはラファールへと虚ろな瞳を向けて言った。
『どうぞラファール様、我が家へお上がりください』