最終電車の着く街
それから数日後。

「お先に失礼します」

大学2回生の夏、いまは夏休み。

たくさん仕事を入れてしまえば暇なんてなくなる

そんなことわかってるのに体力が追いついてこなくって

むしろ年々体力はなくなっていって持病は悪化していく。

だから今日は

だからってわけじゃないけど今日は夜中から出かけるから
最終電車で帰らせてもらうことにした。

11時42分発。

電車に乗り込んだ。

今日もやっぱり静かな電車。

私が乗った車両には誰も載っていなかった。

窓側に座ってイヤホンを差し込んでやっぱりお決まりの曲を聞く。

LINEを開いて連絡をしようとしたけど

「11時50分前」

その数字になんか気が引けて

「こんばんは」

その言葉を何回も打っては消して打っては消して打って送ろうとしたけど

「送信」

のボタンを結局押せなくて消した。

なんだろう。

再会がこんなに辛いなんて思わなかった。

過去の楽しかった記憶何て全部不確かなのに、ぼやけて見えるのに
辛いことだけいま私が見てるかのように鮮明に見える。

認めたくなかった。

仲の良かった赤城先輩と成瀬先輩が付き合ってるなんて。

部長と副部長の時点でだいたい感づいてはいたのに。

でもそんなことないって必死に必死に言い聞かせてたのに。

見てしまった時私の思いなんて綺麗に隠せたのに。

街で見た景色。

成瀬先輩に寄り添う赤城先輩。

成瀬先輩は紺色の浴衣に帽子をかぶってて…。

すごいかっこよくて。

私がしたかったこと。

成瀬先輩は昔から忙しい人だってわかってたから言えなかった

「会いたい」

言えなかった。

「手を繋ぎたい」

彼女だから許されるはずのその言葉ですらいえなかったのに。

赤城先輩は簡単に叶えちゃって。

「こん…にちは」

小さな声で軽く会釈することしかできなかった。

先輩を過ぎてからずっと後ろを振り返えろうとしたけど振り返れなかった。

ずっと下を向いて歩いた。

きっとあの時諦めてなかったらこんなことにならなかったのかもしれない。

きっともっと成瀬先輩のことをわかってから付き合ってたら
こんなことにならなかったのかもしれない。

忘れたくても嫌でも消えない記憶。

いやでもいつも頭の中をよぎる記憶。

消せない辛さにまた押しつぶされて気づけばとまった音楽。

気づけば頬を流れる涙足の上に少しできた水たまり。

「◯○駅、◯○駅」

そのアナウンスにハッとして電車を急いで降りた。

真っ暗な空

「ご乗車ありがとうございます」

駅員さんの言葉に少し頭を下げて切符を改札に通して出た。

少し賑やかな人の声。

おそらく家族が迎えに来たであろう車。

普段言えない言葉

「今日駅まで迎えに来て」

それが私の生きる街で私の真後ろでほかの誰かが叶えてしまう。

街の音をシャットダウンして家まで急いだ。

空を見上げてみた。

少し輝いてた星。

「明日は晴れるね」

独り言呟いて歩き出した。

成瀬先輩と再会したのはフェイスブックがきっかけで

たまたまフェイスブックを開いたら

「今日は成瀬和輝さんのお誕生日です」

ってだたから私がメッセンジャーでコメントしたんだ。

それで久しぶりに連絡を交換したんだ。

そしたら成瀬先輩が

「うちのバンドで唄わないかい」

って…。

それがきっかけ。

昔成瀬先輩がしてたキャラクターのスカーフを
必死に探したけどまだ見つからない。

この家で見たはずなのに見つからない。

ほらまたため息が増えた。

きっとあの時フェイスブックを開かなければ何も始まらなかった。

「誕生日」

って表示されたってコメントなんかしなかったら何にも始まらなかった。

何も動かなかった。

連絡先何て交換しなかったら…。

すべて何も動かなかった。

なのに。

私が1歩踏み出してしまったから。

何かを変えたいってきっと心の中で思ったんだよね。

思ったんだろうね。

だから運命を動かしてしまったんだ。

止まったはずの大きな時計のガラスを壊して秒針をうごかしてしまったんだ。

また動き出した恋心。

辛いことの連続。

わかってた。

そんなこと、聞きたくないってことも多い。

諦めてしまおうかって動き出したこの恋を永遠に封印してしまおうかって思ったけど
それを止めたのは成瀬先輩だった。

私はどっちかって言うと恋に臆病なほうだった、それはいまだって変わらない、けど。

言ったんだ成瀬先輩が。

成瀬先輩に怖いんだって打ち明けたら

「怖いものを越えたやつらが掴むものもあるからな?」

って。
だから決めたんだ。

逃げ出さないって。

成瀬先輩が嫌なほど人気者なのも急がしいのも知ってる。

でもそんな情報の中で得た情報もたくさんあった。

ここまで来たら終われない。

結果はどうであれ進むしかなった。

「ただいまぁ」

リビングにカバンを下して一息つく。

クーラーの効いた部屋。

また連絡を送ろうとしたけど何にも送れない。

きっと今日は送れないんだ。

って諦めて私は自分の部屋に向かった。

水着に着替えて夜ご飯を食べた。

夜中2時荷物を車に詰め込んで出発した。

夜中のドライブ。

なんだか胸がドキドキした。

どっちかというと朝は嫌い。

お昼も嫌い。

どうせなら夕方に起きて夜ご飯を食べて夜の街に出かけたい

それが私。

車もいない静かな街。

まるでい世界にでも来たかのような静けさ。

朝みたいにお昼みたいに眩しくもない暑くもない。

そんな街が大好きで180度変わる世界の顔。

それがまたたまらなく大好きで。

朝3時。

目的地近くに到着した。

少し夢の中に堕ちてた私は雲の低さに目が覚めて

「ママ。雲が低い」

そんな一言を発した。

薄い雲。

真っ白な世界

「ここは霧が起きやすいらなぁ」

って言うパパ。

空を見上げると私の住む町よりも全然綺麗な星。

本当につかめそうな。

そんな距離。

この綺麗な景色成瀬先輩にも見せてあげたかったなぁって思った。

こんなに綺麗な景色すら共有できないことがなんかまた苦しくて。

連絡してる時は嬉しいのに楽しいのに。

なのに考えてるとこんなにも苦しくて辛い。

それからまた夢の中に堕ちて私が目を覚ましたのは
それからだいたい1時間後くらいのこと。

仕事終わりで疲れてるはずなのになのに。

なのに。

全然寝れない。

楽しいって気持ちで少しはまぎれてるけどでも疲労感は隠せなかった。

朝4時50分家族日の出を見て舟屋を見た。

まだ戦時中の防空壕が残っていた。

海水浴に入ったけど砂浜が砂というよりは石で足が痛くて
結局10時には退散して釣りのできるところを探しにまた車を走らせた。

なんだか体のだるさが増してる気がしたけど気のせいだって言い聞かせて

少しまた眠りにつこうとしたけどなんだか寝れなくて家族でワイワイ話してた。

「赤レンガパークに行こう」

パパがいきなり発言するのはいまに限ったことじゃなかった。

赤レンガパークが近くなったときふと窓の外に目をやった。

そしたら

「…!?」

戦艦が窓の外に見えた。

戦艦‼?私の頭の中はプチパニック。

「パパあれ見たい!」

私のわがままで急きょ予定は変更赤れんがから戦艦を見に行くことになった。

うきうきする気持ちで足取りは早くなっていく。

別に戦艦が大好きなわけじゃない。

ただ少し前に成瀬先輩が戦艦好きだって言ってたから話し下手の私緊張しぃの私。

何も話せないから少し話のネタにでもなるかなって思って。

戦艦のことは何にも知らない。

でも初めてまじかで見た戦艦の迫力に

「かっこいい」

思わず言葉が漏れる。

たまたま持って行ってたチェキで何枚も写真を撮に戻った。

車に戻る前海上自衛隊の小さな売店で売られてた

中ぐらいのサイズのクマのぬいぐるみを買った。

私はクマが大好きでクマを見るや否や買ってしまう。

それから軽く熱中症のかかった私は家に着くまで寝ていた。

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