乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
杏樹は、一瞬自分の耳を疑ってしまい、一度、頭で考え、さらにもう一度考え、自分の耳が悪いわけではないと理解する。
「えっ!!いやいや、同居、ダメでしょ!」
一生懸命否定する杏樹。
「大丈夫だって!さっきの部屋使ってくれていいし、俺、お前を襲う気力もないくらい、忙しいんだよ!だから、問題ない!」
大丈夫だと言い張る雅輝。
三食、美味しいご飯が食べれて、さっきのふかふかのベッドに眠れる。
そして尚且、この男には、地を見せているから、構える必要がないと考えると、あまり知らない人間同居なんて不思議と大丈夫な気がして、"する!"と答えていたのだった。
ご飯の後片付けが終わり、杏樹は雅輝を探す。
ふと、さっきベッドがあった部屋の隣の部屋から鼻歌が聞こえてきた。
空いている扉から中を窺うと、大きなウサギを抱え、右手を器用に動かしている。
「あの…片付けた、けど…。」
「んー。サンキュー。」
「それ、私が抱いてたウサギ?」
「ああ。昨日仕上げるはずが、お前が抱きついてたからさ。出来なかったんだよ…。」
そう言いながら手だけは、チクチクと針を進め、昨日よりさらにウサギになったウサギを我が子を見るような眼差しで見ている。
「これ、あなたが?」
「んー。可愛いだろ?」
「うん、すっごい可愛い~!」
杏樹が顔をふにゃっと笑いながら答えると、雅輝は、目を見開いて杏樹を見ていた。
「?私なんか変なこと言った?」
そう言いながら顔を再度見ると、うっすらと耳が赤いように見える。
「いや、引かないんだなぁと思って…。」
首を傾げる杏樹は、意味が分からずにいると、切ない瞳の雅輝がウサギをみていた。