乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
「杏樹、他に誰かに企画のこと話した?」

「まさか。パパには話したけど、楽しそうじゃないって!?」

 ふたりの間に、何とも言えない微妙な空気が流れる。杏樹の父が話すとは思えない。

 二人は、ある一人を疑ってしまう。

「「ま、まさかね…。」」

 でも、それしか考えられないと、友人も杏樹も神妙な顔をして、また、黙り混む。

 朝方に出来た企画は、最後に欠けている部分があり、爪が甘く、お昼休みに考えようと思っていたため、完全には出来上がってはいない。

「絵梨、あれ、まだ完全じゃなくて、お昼仕上げる予定だったんだよね。」

「そうなの?でも、じゃぁなんで、通ったのかしら?」

 二人がまた、黙り混むと隣の会議室から人が出てきて賑やかになった。

 少し扉を透かしてみると、杏樹の商談相手に頭を下げる課長と男性とかすみの姿が。

 商談相手は、"期待してるよ!"と満面の笑みを。

 こちら側の3人もそれに答えている。

 課長が先に持ち場を離れると、今まで、笑顔だった男が、かすみを振り返り、おでこにキスをする。

「かすみ、良くやったよ。完全に出来上がってはいなかったけど、この俺にかかれば容易いもんだよ。今から詰めればいいんだから。」

「難波さん…。私、役に立てて嬉しいです。」

 二人は扉の向こうに杏樹たちがいるとは知らずに、口づけを、交わす。

 杏樹の手がわなわなと震えて始める。

 友人が止めようと思ったときには、すでに遅く、会議室の扉を乱暴に開いた。

「ふざけんなっ!」

「杏樹先輩!?」
「立花!?」

「杏樹!」

 すごい形相の杏樹が、難波とかすみを睨みつけ、二人は見たらいけないものを見てしまったと言う顔をしている。

「難波くん、あんたやっていいことと悪いことがあるよね?」

 一瞬杏樹の強い口調にたじろぐが、すぐに、取り繕いながら透かしたように言う。
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