乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
ふたりはお互いを知らない
 ある日のランチタイム。今日は雅輝が用事があると話して、アトリエを二時間程度閉めたため、杏樹は外にランチに出た。

 フランスの家庭料理を提供しているリーズナブルなお店は杏樹の家庭の味に良くにているため、よく、一人でフラッと立ち寄る。

 ここはオーナーがフランス語を敢えて話すため、フランス語を学ぶ学生や社会人が多く訪れる。

 ふと入ろうとすると、急に手首をつかまれた。

「七瀬さん?」

 つかまれた腕から目線をあげると、その人物は悠一だった。

「杏樹ちゃん、この店フランス語オンリーだよ?」

 悠一は杏樹がなにも知らずに、この店に入ろうとしていると思ったらしく、別の店に行くよう促し、お店の入り口を塞ぐ形になった。

『アン!!いらっしゃい。久しぶりね~こちら、彼氏?』

『久しぶり。彼は友人、たまたまここで掴まったの。』

 杏樹を"アン"と呼ぶ、ここのウェイトレス。

 悠一は、フランス語が分かるため、二人の会話も理解出来るから、二人がこんなにフランクに話しているのに驚いた。

 だが驚いたのは、杏樹の流暢なフランス語だ。

『今日はのオススメはホントオススメだから。』

 そうウェイトレスに言われながら、二人は一緒の席に案内させ、二人に伺うことなく、オススメねっとウィンクして厨房に去っていく。

「杏樹ちゃんは、良くここ来るの?」

「はい。会社からちょっと離れてるので、息抜きするときに、利用します。」

「七瀬さんは?」

「俺は会社から近いから。フランスの会社と商談を控えている時とか、気合い入れるためにね。」

 二人は当たり障りのない会話をする。

 窓際の席に案内された杏樹は、会話が途切れてふと外を見ると、この店より前に一台のタクシーが止まり、見知った人物が女性と降りてきた。

 
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