乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
 いつものチノパンにカッターシャツという、ラフな格好じゃなく、パリッとしたジャケット姿にスラックス。

 いつもの無造作ヘアではなく、長めの髪をワックスでセットしているが、間違いなく、雅輝だ。

「雅輝さん?」

 杏樹が外を見ながら呟いた。

「ん?違うんじゃないかなぁ?」

 明らかに目を泳がせる悠一。

「七瀬さん、雅輝さんが来ること知ってたんじゃ。」

「知らないよ?」

「目が泳いでますよ?」

 悠一に向かって微笑む。ー通称、天使の微笑みー 会社で身につけた、処世術の一つだ。

「いやっ、俺は別に…。」

「別に雅輝さんがデートでも、私には関係ありませんよ。妬いたりしませんし!」

 そう言いながらも、横目で、いつもと違う雅輝と、横の女性を見てしまう。

 真っ黒のサラサラヘアを腰のあたりまで靡かせ、オレンジのルージュ、キリリとしたきつめの目元に大きな瞳。

 こんな暑い日に、秋桜色の訪問着をきている、絵梨に似た和服美人だ。

「デートね。接待だけどね…。」

 接待という言葉に引っ掛かりを覚えたが、ちょうどランチが来たため、深く追及するのはやめて、ウェイトレスと会話をはじめる。

 その様子を横目にしながら、窓の外に目をやると、ビックリした顔で雅輝が二人を見ていた。

 悠一は、ひきつりながら手を降り、雅輝は笑顔だが不機嫌オーラが出ている。たが女性に声をかけられるとすぐに作り笑顔をし、応対する。

 一瞬、杏樹に視線をやるがすぐに、女性を連れて人混みに消えていった。

 悠一は、ため息をついた。雅輝に、杏樹を連れて雅輝たちと会わない場所で食事するよう言われていたのだ。

「ヤバイ。怒ってたよな…。」

 杏樹がウェイトレスと話しているため、悠一の呟きは聞かれることはなかった。
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