乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
「よっ!エクレア持って来たよ!」

 涼しい顔をした悠一が、紙袋片手に入ってきた。

「土日に来るはずだったのにな、社長。早かった、来るの。」

 ウンウンと勝手に納得している悠一に、雅輝はため息をついた。

「何となく予測は出来たんだけどな…。ぬいぐるみと一緒じゃない自分を想像出来ない…。」

「何言ってんだよ。跡継げるように、大学だって、勉強だってしてきたくせに。」

 雅輝は、高校卒業後に、フランスに4年留学、その後2年をアメリカで過ごし、その時に経営学を勉強している。
 
 実際にアメリカでは、潰れかけた会社を建て直し、それなりの評価を得て、今ではそこの顧問をつとめているが、それは日本にいた専務は知らない。

 日本に戻ってきてからは、自分のアトリエを開設し、いち早く海外に向けてネットショッピングを立ち上げたことで、一人でやり取りするには、結構大変な量を裁いている。

 店のホームページには、顔は載せていないため、誰も雅輝がぬいぐるみ作家とは思われない仕組みになっていた。

 過去の苦い経験からあえて顔は載せていない。

 そんな自分の店を閉めないと、社長業は出来ないだろう。

「会社じゃ専務がいい回っているぞ。社長の息子に結城財閥の娘との仲立ちをしたから、二人が結婚したら、会社も安泰だって。」

「あの女は強かで嫌いだ。」

「副社長に仕立て後に社長に。そして、実権は、専務が…みたいなシナリオで、雅輝の海外での噂を知らないから、飾っておくにはちょうどいいと思ってるみたいだ。」

 専務が会社を欲しがっていることは知っていたが、自分を使ってまでのしあがりたいと思っているとは、なんて浅はかだと考えていると、ふと、悠一が気が付いたように言う。

「あれ?杏樹ちゃんは?社長とは逢わなかったの?」

「ああ。打ち合わせがあって、出掛けた。」

「ふ~ん。…打ち合わせ?」

「内密にとか言ってたけど、例の企画の担当者と。」

「え?……うちの?」

 そう話す悠一は、顔をしかめ怪訝そうにしている。

「今日、その担当者、有休で休みだよ!」

「はぁ?」

 二人で顔を見合わせて、"はっ"とする。雅輝が車のキーを壁から引ったくる。

「場所聞いたか?」

「嫌、聞いてないが、防犯ブザーにGPSが内蔵してある。」

 近くにある駐車場まで走りながら、雅輝はGPSが作動するか確認し、そこが料亭ー楓ーであることが分かると、さらに顔が険しくなり、いつもより、野獣ぶりがアップしている。

「間に合ってくれよ!」

と、少々乱暴に言いながら、助手席に悠一を乗せ、車を走らせた。
 
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