乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)


ー目的地に到着しました。目的地に到着しました。ー

 カーナビが料亭ー楓ーについたことを知らせる。車を止め、二人とも降りる。すると直ぐ様、女将らしき人物がこちらに来た。

「申し訳ありません。本日はどのような御用で?」

「知り合いが来てるんだが、呼んで頂けないでしょうか?緊急の用事で。」

 悠一が柔らしい表情で優しく訊ねる。

「ただ今皆さま、観光に出払っております。」

「離れは?多分いると思うけど。」

「……おりませんが。」

 悠一は、離れにいるのを確信していた。そして、女将もグルであることも。

「悠一。」

 後ろから顔を出した雅輝を見て、女将の顔色が変わる。

「あっ貴方は…。連条社長のところの…。」

「もう一度聞きます。岩倉はどこだ!」

 雅輝の凄みを増した低い声に、目を見開いた女将は、雅輝から目を逸らし地面を見て、"は、離れにおります…"と消えるような声で呟いた。

 それと同時に、桁ましい警報器のような音が三人を包んだ。

「なんだ、これは?」

「杏樹が防犯ブザーを作動させた!!」

「まさか!?」

 女将から離れに続く道を案内されながら進むとブザーの音がどんどん近付いているのが分かる。

 行き止まりに部屋があり、確認すると女将が頷いたため、勢いよく襖を開け、中まで進む。

「杏樹!!杏樹!!」

「えっ雅樹さん!?七瀬さんも?」

 杏樹は驚いて声をあげる。

 部屋の中には髪の毛が乱れ、多少の服の乱れはあるものの無事な様子の杏樹と、股間を抑えて男前の顔を歪ませている岩倉がいた。

「杏樹、大丈夫。」

「…はい、私は大丈夫です。でも、岩倉さん思いっきり蹴ったから…岩倉さんの方が重症かも…。」

 顔を歪ませている岩倉に、男性は"ご愁傷さま"と言葉を投げ掛けていた。

 その後、悠一が岩倉をつれ料亭を出ていき、女将も下がったため部屋には、杏樹と雅輝だけになった。

 乱れた髪をまとめていると、急に後ろから杏樹は抱き締められた。

「…え!?」

「無事で良かった。」

 頭の上で呟く声が聞こえ、抱き締める力がさらに強くなる。杏樹は、岩倉の時は不快に感じた距離さえも、雅輝では不快に感じない。

 むしろ安心していることに気がつき、雅輝の抱き締める腕をほどいて、向き合い、雅輝に抱きついた。

 雅輝もびっくりした様子は感じられたが、すぐに、強く抱き締め返した。

「ありがとう。助けてくれて…。」

 杏樹も強く抱き締める。

 しばらくの間、二人は言葉もなくただひたすらと、お互いの温もりを確かめあったのだった。

 
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