乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
ふたりのターニングポイント

~杏樹の場合~


 週明けの昼時、杏樹はまだ有給休暇も残ってるのに、自分の会社のビルを仁王立ちしながら見上げていた。



 昨日、料亭からの帰り道、雅輝が提案をしてくれた。

「俺と働かないか?話を聞けば杏樹の上司も知ってて電話をかけてきている。女性に尊厳がない様な会社と思ってしまう。あんな目にあって周りを信用出来るのか?」


 そう言われたため、一応辞表を忍ばせてきた。

 でも、どこかで働いてきた会社を信じたい気持ちもある。ふうーと、深呼吸をし会社の入り口をまたいだ。

 受付にあいさつすると、出勤してくると思ってなかった絵梨が、何事?と言う顔を向けるが、あとでねっと軽くいい、エレベーターに乗り、企画課がある七階を押した。

 エレベーターの中の従業員にチラチラ見られるのは、気になるが、今は昨日の真意を確かめる方が先だ。

 企画課のフロアに入ると、上司がびっくりした顔で杏樹に気がついた。

「課長!」

「あっ立花。久しぶり。今日は、まだ、休みのはずじゃ。」

 目線を逸らししどろもどろしながら慌てている。

「岩倉さん、警察に捕まってますから、課長にも警察から話があるかもしれませんので、報告にきました。」

 フロア全体がざわめきだし、課長と杏樹に目を向ける。ちょうど昼休憩に入る時間だったようで、みんなが気にしているのが分かる。

「課長、あんなこと許されませんよ!」

「た、立花。俺は伝言を頼まれただけだ。」

「内密に、内密にって何回も言って、口止めしましたよね!」

「本当に、伝言を頼まれただけだ!」

 課長と杏樹の言い争いを聞き付けた隣のフロアの人間も入り口に集まりだし、入り口に人垣が出来た。

 その人垣を掻き分けながら入って来たのは、難波とかすみだ。

 杏樹の顔を見ると、かすみはさっと視線を逸らし難波の後ろに隠れる。

「よっ?立花。さぞ、優雅な休暇だろうな。お前に尻拭いが大変なのにな、みんなは。」

「難波さん、岩倉さんは今、警察に捕まってますよ。昨日のあれ、難波さんの企みですよね?」

 難波はチッと舌打ちをし、杏樹を見る。

「俺は関係ないよ?あの、掲示板やネットに流れてた立花のエロ写真見て、逢いたいみたいなことは言ってたけど。」

と、ニヤニヤしながら杏樹をみる。

「いい思い出来て良かったんじゃない?」

そう言いながら杏樹の横をすり抜ける。

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