乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
フロアにいる同僚たちは何か言いたそうにしているが、誰も何も言えない。
「私からは引き継ぐことはありません。難波さんがいますから。」
課長に一礼して、自分のデスクの私物を片付ける。
入社仕立てのころに企画課で撮った写真、筆記具、マグカップ、膝掛け。私物とは、それくらいのものだった。
袋に入れた私物を持ち、"お世話になりました。"と一礼すると、入り口の人混みに絵梨がいた。一部始終を見ていたんだろう、"お疲れ様"と笑いかけてくれた。
「お疲れ様。荷物貸して?」
会社の建物のすぐそこには、車に背中をつけ腕くみしている雅輝の姿があった。当然のように荷物を後部座席に置き、助手席に導いてくれる。
「お迎え、ありがとうございます。」
「あぁ。いいんだよ。」
助手席に座って横を見ると、ふと違和感があった。
「えっ?何でスーツなんですか?」
「んっ?ちょっとね。」
いつもと同じようにフランクな言い方だが、いつもと違う姿に釘付けになってしまう。
ネクタイを緩めたシャツの間からチラチラと見える鎖骨。
いつも腕捲りしている筋肉質な腕が、スーツに隠れているのもまた、色っぽく見えてしまう。
自分が何を考えているんだろうと想った瞬間、自分で顔が赤くなるのが分かった。
それっきり黙ってしまった雅輝に、自分の顔が赤いことがばれないよう、今までお世話になった会社を車の中から眺める。
楽しかった、つらかった、そんな思い出が詰まっている場所。社会の厳しさを教わった所。
新しい1歩を踏み出すのは、怖くて、でも、期待もある。
でも、雅輝との新しい仕事、雅輝といることに幸せを感じている杏樹にとって、今がきっと、分岐点なんだ。
そう、ターニングポイント。
自分の判断を信じてみたい。
杏樹は、雅輝の横顔を眺め続けた。
「私からは引き継ぐことはありません。難波さんがいますから。」
課長に一礼して、自分のデスクの私物を片付ける。
入社仕立てのころに企画課で撮った写真、筆記具、マグカップ、膝掛け。私物とは、それくらいのものだった。
袋に入れた私物を持ち、"お世話になりました。"と一礼すると、入り口の人混みに絵梨がいた。一部始終を見ていたんだろう、"お疲れ様"と笑いかけてくれた。
「お疲れ様。荷物貸して?」
会社の建物のすぐそこには、車に背中をつけ腕くみしている雅輝の姿があった。当然のように荷物を後部座席に置き、助手席に導いてくれる。
「お迎え、ありがとうございます。」
「あぁ。いいんだよ。」
助手席に座って横を見ると、ふと違和感があった。
「えっ?何でスーツなんですか?」
「んっ?ちょっとね。」
いつもと同じようにフランクな言い方だが、いつもと違う姿に釘付けになってしまう。
ネクタイを緩めたシャツの間からチラチラと見える鎖骨。
いつも腕捲りしている筋肉質な腕が、スーツに隠れているのもまた、色っぽく見えてしまう。
自分が何を考えているんだろうと想った瞬間、自分で顔が赤くなるのが分かった。
それっきり黙ってしまった雅輝に、自分の顔が赤いことがばれないよう、今までお世話になった会社を車の中から眺める。
楽しかった、つらかった、そんな思い出が詰まっている場所。社会の厳しさを教わった所。
新しい1歩を踏み出すのは、怖くて、でも、期待もある。
でも、雅輝との新しい仕事、雅輝といることに幸せを感じている杏樹にとって、今がきっと、分岐点なんだ。
そう、ターニングポイント。
自分の判断を信じてみたい。
杏樹は、雅輝の横顔を眺め続けた。