乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)

~雅輝の場合~

 週明けの朝、杏樹が部屋にいるのを確認し、キッチンにメモ書きを残し、雅輝は、父親との約束を果たすため、家を出た。

 車に乗り、向かった先は、オフィスーRーラポール、自分の父親の会社だ。

 車から降りた所で、会社の前に悠一を確認する。

「腹くくったんだな。」

「条件をたくさんつけてやったよ。」

「お前らしい。」

 悠一の案内で裏口から会社に入り、シーンとした廊下を歩きながら話すのは、岩倉の一件があった週末のことだ。



 週末はなずなに頼まれた翻訳をしに、悠一の家に行くことになっていた。悠一が迎えに来てくれる予定であったので、早起きし準備をしているところに、来客がきたのだ。

 杏樹がまだ飲み物を飲んでいたため、雅輝がお店に出向く。

「雅輝、寄らせてもらったよ。」

 雅輝は突然の父親の来訪にびっくりし、杏樹の存在を忘れていた。

 そこに何も知らない杏樹が顔を出した。"雅輝さん?"そう言いながらひょこっと。

 可愛い顔でニコッと笑う杏樹に、びっくりして目を見開いている父親、苦笑いの雅輝。

 どうやら悠一が近くまできたことを伝えに来たらしい。
 雅樹が後から行く旨を伝えると、"分かりました。"と一旦中に引っ込み、また、二人の前に戻ってきた。

「外は暑かったでしょうから、良かった、どうぞ。」

と、父親の前にアイスティー、雅輝には、紅茶をおいた。

「すまないね。喉カラカラだよ。ありがとう。」

「ガラスポットにおかわりあります。では、失礼します。」

そう話し、雅輝に行ってきますと言い、出掛けていく後ろ姿を見送る雅輝を、後ろでニヤニヤしている父親が容易に想像でき、雅輝は振り向くことが出来ないでいる。

「雅輝。恋人?」

「…違う。」

「ふ~ん、冷たい飲み物飲まないのしってるから、てっきり恋人かと?」

「……訳あって、部屋を貸してる。」

 父親の顔を見ずにそう切り出すと、父親はゴホゴホとアイスティーが気管に入ってむせだす。
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