乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
「こんなに、拍手をいただき、さらに、頑張ろうと決意が強くなりました。」

 強面の顔に少し笑みがかかり、女性陣の声が、黄色い悲鳴になる。

「何度も足を運ぶ社長に対して私は、条件を出しました。これは、会社のみんなにも十分理解して欲しいと思っています。まず、メディアに対しての露出は一切しません。雑誌、テレビ、ラジオすべてです。二つ目は、何故か私が結城財閥の娘さんといい感じだと、根も葉もない噂が飛びまわっています。本当に迷惑です。私には大切にしたいと思う存在がいますので、噂に惑わされないよう、お願いします。」

 その話を聞くと、みんなが専務に目を向け、話が違うんじゃないかと言いたそうに見ている。

「三つ目は、ブライダル企画のメンバーについて、私に選ばせて欲しいということです。」

 そんな事を言い出した雅輝に対して、敵意を露にする専務が壇上から見えるが、構わず話を続ける。

「前回のように途中で、企画がぱぁーにならないように、極秘利に進めるつもりで、メンバー選出をしました。皆さんのパソコンに辞令とメンバー表が人事部から送られています。このあと、確認してください。外部の人間が一名おります。私がヘッドハンティングしました。海外事業部でも解読出来なかった翻訳を行った女性です。彼女を入れてメンバーは5人でスタートします。」

 専務は下ろした手を握りしめ、悔しそうに唇を噛んでいる。

「では、今日は挨拶だけでしたので、明日からブライダル部署は始動いたします。他に質問はないですか?」

 軽快に話す雅輝に対して、空気が読めない男性社員が"思いを寄せてる人は、どんな人ですか"と大きな声で質問した。

 一瞬、雅輝は目を大きく見開いたが、すぐに、"これから全力で落とすんですよ。"と、笑顔でその場をしのいだ。


 こんな形で着任の挨拶を済ませた雅輝が、悠一とともに社長室に向かっている途中、前から専務が数名の社員を引き連れている姿が目に入る。

 専務たちも気がつき歩く速度を緩める。

「副社長。すばらしい、着任の挨拶でしたよ。私も鼻高々だよ、叔父として。」

「ありがとうごさいます。専務。腰掛けの副社長でないことをブライダル企画で証明してみせます。」

 二人のなかには、確かに火花が飛び散っている。

 専務は、楽しみにしているよって言いながら、数名の社員を引き連れて通りすぎて行った。
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