乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
 寝息をたてる杏樹が抱きつく力を弱めることはなく、自分に引き寄せるようにすり寄ってくるため、雅輝が身をよじりちゃんと抱き留める格好を取ったとき、目に入ってきた光景に、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「試してんのか?…杏樹。」

 寝苦しいのか下着をしていない杏樹の胸元が目に入る。

(スタイルはいいと思ってたけど…。胸、けっこうあるよな…。)

 チラリと覗くと、それに気づいてるかのように、胸をさらに雅輝の体に密着してくる。

(これは絶対試されてる…。ヤバイ…本当にヤバイ。)

 悠一が言ったように普通なら理性が崩壊しても可笑しくないが、過去の恋愛が雅輝の踏み出せないストッパーになってしまう。

 淡泊なわけじゃないが、今までの女は雅輝のことを"俺様系""どS""オラオラ系"と思っているらしく、初めて抱いた次の日には、充実感より不満を露にする。
 自分はただ相手を大事にしてるつもりが、その気持ちが相手に伝わることはなく、離れていく。
 だから、久しぶりの、この気持ちをどうすればいいのか分からない。

(安心して眠ってる…意識されてない?)

 そんな疑問も過る。でも、今までの杏樹の反応から嫌いではないはず…と思いながら、抱き締めながら、ベッドに一緒に沈み混む。

 布団の感覚に安心したように、あどけない顔をしながらも雅輝にすり寄るのはやめない。体勢を変えて片方の腕に杏樹が頭を乗せてきたため、雅輝は、そっと反対の腕を杏樹に回し、抱き締めるが起きる気配はまるでない。

「はぁ……。反応しそう…バカ、杏樹…。」

 さっきからチラチラと見える胸の谷間と、杏樹の髪から香る微かな甘い匂いに葛藤しながら、長い夜を過ごした。


 遠くから聞こえる鐘の音に、雅輝は目を開ける。片方の腕に重みを感じ、杏樹がいることに気がつく。

 何時だろうか、カーテンから差し込む光は明るく眩しい。杏樹の寝顔をじっと見つめ、一緒に寝ている事実に顔がにやけてしまい、杏樹の髪を撫でていると、目を開けた杏樹と雅輝の視線がぶつかった。

「「…………。」」

 二人の間にしばらく無言の時間が流れる。

「おはよっ杏樹。」


 雅輝が声をかけると杏樹は布団に潜り込み"おはよう、雅輝さん…"と消え入りそうな声で挨拶した。
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