乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)

 夜、月明かりに照らされながら外国語を話す声で、なずなは目を覚ました。

 会社が終わり、悠一が雅輝の実家に行くためいつも通り、杏樹とアトリエに帰ってきた。
 絵梨は、会社の飲み会があるらしく、今日は自分の家に帰っていった。

 杏樹とたわいもない会話をし、日付が変わる前に二人で布団に入ったのを覚えている。

 何を話しているかは分からないが、その言葉がフランス語なのかなあと思っていると、急に聞きなれた言葉になり、ドキッとする。

「もう、いつもわがままだなぁ。愛してるよ。」

 なずなはその杏樹の言葉に胸がドキドキした。

(えっ?連条さんに言ってるの?二人ってラブラブなんじゃん?)

 なずなはそんなことを思い、また、いつの間にか眠りについていた。



 杏樹は、なずなと布団に入り一眠りしてから、とある人物に電話をかけた。

『杏樹?おはよう、そっちは夜中だろ?』

『アラン、おはよう。一眠りしたから大丈夫だよ。』

『人前じゃいえないんだから、パパって呼んでよ?』

『……いつになったら日本に来るのよ?パパ。』

 電話口で相手が嬉しさの余り、悶えているのが分かる。

 クリスフォード・アラン、自分の父のことを公共の場でパパとは呼ばず、アランと名前を呼んでいる。父は子どもがいることは隠していないが、人前で一緒にいることは出来ず、杏樹も自分の父が誰なのかは言わない。

 それには、理由があるのだ。

 今だからこそ有名な父だが、昔は売れない画家で、ステンドグラスに絵を描いて、それをアクセサリーにして販売していた。そのアクセサリーにひとめぼれして、父に興味をもったのが、駆け出しのモデルだった杏樹の母、ー杏華ーだった。

 二人はフランスの古いアパートで暮らし、程なくした頃、父は大きな美術賞をもらい画家として名前が売れだす、母は、パリコレに選ばれ一気にモデルとして成功するのたが、杏樹を身籠ったため、表舞台から姿を消した。

 父が有名になり、杏華が身籠っているんじゃないかと噂を聞き付けたメディアに追いかけ回され、体調を崩した杏華が入院し、騒ぎはおさまったかのように思われたが、熱狂的なファンが杏華の子供を狙う大惨事が起きたのだ。

 そのことにより、出産後も戸籍には名前があるのだが、父も母もメディアに向けて杏樹の話はしないよう徹底したため、クリスフォード・アラン氏の娘が杏樹とは誰も知らない。
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