乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
ふたりの新な企画
 ここ最近、杏樹は、なずなに見られている気がする。尋ねても、"ううん、気のせいだよ!"と言われるから、それからそんな質問はしない。

 でも、変なことを聞かれる。

「フランス人ってやっぱり愛を語ったりするもんなの?」

と、急に言われ、杏樹は目を見開いた。その真意も分からずにいると、"変なこと言ってごめん~!"と言う。
 
 杏樹は、何かあったのだろうかと、考えたが、まさか、夜中の電話の話をされてるとは、これっぽっちも思ってなかった。


 なずなは、夜中の電話の相手を聞けずにいた。恋愛初心者の杏樹が、"愛してるよ"と言うなんてびっくりしたのが本音だが、相手はどうやら雅輝じゃないのは、次の日、それとなく聞いてみたからわかっている。

 じゃ、誰なんだとなるが、それは知りたいけど知りたくない、ジレンマに囚われた。

「いよいよ、明日が白愁先生の接待の日だ。俺とゆずる君が説明をしている間は、部屋で待機だ。結城親子も専務も待機させるつもりだから、よろしくな。」

 
 そう言われて迎えた次の日。

 結城親子が贔屓にしている料亭での話し合いに、途中で合流した杏樹は、みんなの格好に驚いた。

 皆が揃えたように和服だったからだ。

 それを目敏く見つけたのは、専務だった。

「君は、その格好で白愁先生に合うつもりか?知らないのか?和服で合う決まりが暗黙の了解なんだよ。」

 杏樹はそんな決まりがあることも知らず、もとより白愁先生自体がどんな人なのか知らないのだ。気難しいと言われても、ネットで調べても出てこない人物なのに、そんなこと知るすべもなかった。

「申し訳ありません。そんな決まりがあるとも知らずに。」

 杏樹が頭を下げると、横から嫌みが聞こえてくる。

「そんな常識も知らない人がメンバーで大丈夫なのかしら。私、心配だわ。連条さんのためにも良くないと思います。」

 立派な着物姿のあやめがあやめにひややかな視線を送りながら、自分の帯を触りながら、杏樹に話しかける。

「この帯、白愁先生の作品なんです。素敵でしょ?先生は滅多に着物のデザインはなさらないから中々手に入らないんです。だから、帯の値段も何百万なんです。あなたにはわからない話でしょうけど。」

 最後は耳打ちするように囁くあやめに、杏樹はニコリと笑う。

「艶やかな方ならもっとお似合いでしょうけど。」

と、嫌みに嫌みで返すとキッと睨まれる。
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