乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
「最後のデザートに合わせて、お抹茶を準備いたします。」

 最後に、目の前でみんな分のお茶を立て、杏樹は一礼し、部屋を後にした。食事は和やかに終わり、専務と結城親子が白愁先生と次に向かおうとするが、動かずこう言ったのだ。

「さっきの社員に会いたいんじゃが。」

 杏樹は、借りた和服を返すため、従業員の部屋にいたため、ほっとしていたのだが、あやめによって席に戻される。

 少しでも良いところを見せようと、あやめが率先して杏樹を探しに来たのだ。

「何ですか、結城さん?」

「先生がお呼びよ。あなたの降るまいに問題があったんじゃないかしら?」

 そんなことは絶対にないだろうと分かっているのに、あやめは意地悪する。

「本当、先生のこと知らないんだから!呆れるわ!」

 文句を言われながらも、部屋に近づくにつれ表情を戻し、部屋に入るときは甲高い声を放ち、"先生、連れて参りましたわ。"と、猫なで声になる。

 杏樹が部屋に入ると、豪快に笑う白愁先生が両手を広げていた。
「やっぱり、杏樹じゃないか!!」

「えっ!白愁先生って白城のおじさまのことだったの!」

 中に入り、先生と杏樹がお互いに抱き締めながら、久々の友人にあったように、喜びを確かめあってる。

「おじさま!いつ日本にお戻りに?今は外国にいるんじゃなかった?」

「半年前に戻ってきたんじゃよ!!やっぱり外国の水はあわんかったんじゃよ。」

「早く、教えてくださいよ!顔見せに行ったのに?」

 こんなに和やかに話す白愁先生を知らない皆は、この様子をただ見守ることしか出来ず、しばらく口を閉ざす。

「ホテルの理事になってしまって、癒されたかったんじゃよ。杏樹の演奏…まだ、腕は落ちとらんな。」

「うれしい。まだまだ、現役でいけますね、私。」

 二人が一頻り話したとこで、雅輝が間に入る。

「杏樹、知り合いなの?白愁先生と。」

「あっすみません。えっと、父の水墨画の先生で、私のまぶだちの白城のおじさまです。日本にいるときはよく遊んでもらったんです。」

「…まぶだち?」

 杏樹の解答にみんなが口をあけて固まる。

「年の離れたまぶだちじゃよ。成人式の振り袖はわしが作ったんじゃよ。次は結婚式の打ち掛けを作るつもりじゃからな、早く結婚しておくれよ、杏樹。」

 その言葉を聞いて、杏樹につられ雅輝も顔を赤らめたが、青ざめた顔をしている人物がその場に二人いたのだ。

 結城親子だ。

 そのことには誰も気がつがず、ただ、白愁先生の豪快な笑い声だけが部屋に広がったのだ。
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