乙女野獣と毒舌天使(おまけ完結)
 自分で言ってしまって、悲しくなる"最後の思い出"。

 最後になんてしたくないのに、今日、本当の話をしてくれれば、あんな女と結婚せずにすむのに、と思う。

 でも、結局のところ、杏樹を信じきれない自分がいけないのだ。今までのどの女にされた裏切りより、大したことないことなのに、許せないのは、杏樹が本当に好きだからだ。

 好きだけではいい表せないくらい、"愛しているのだ。"なのに、これが最後なのだ。

 自分が出した答えなのだ。

 だから、ちゃんとすみずみまで忘れることがないよう、ちゃんと目に焼き付けて、杏樹の体に自分を刻み込んで起きたい。

 そう思うと、優しくする余裕なんてこれっぽちもなく、ただ、自分勝手に抱こうとしているのが、自分でもわかる。

 初めのうちは抵抗していた杏樹の力も抜け、涙を流しながらも、はにかむように笑いながら応じる姿が目にうつった。

「んっ……。あっ…っ。っはぁ。」

 口から漏れる杏樹の声を聞きたくて、キスするのをやめると、首、胸、腹と至るところに、自分の証とばかりに赤い印をつけまくる。

 手で口を覆うとすると、すぐに手を退かされ、わざと敏感な部分を甘噛みされたり、吸ってくる雅輝に精一杯の杏樹は、どうにか目をそらさないように、必死で目を開き、雅輝の顔を見ていた。

「……あんじゅ…。」

 切なく呟かれる声に、キュンとなる杏樹。

 求められるその気持ちが嬉しくて、自分から雅輝を求めた。

 ひとつになるとき、雅輝が何かに気が付き、一瞬躊躇したように感じ、杏樹が不思議に思うが、すぐに杏樹は、そんなこと気にならないくらいの快感に溺れる。

「…まっさ…き、さんっ…。」

「……あんじゅっ…。」

 二人は重なりあい、愛の言葉もなくただひたすら、名前だけを呼びながら、お互いのことを忘れないように、お互いを刻み込むように、深く深く求めあった。

 
 行為が終わった後の二人は、初めて背中合わせで寝た。
 ひと息ついた頃、杏樹の背中の方で、ゴソゴソと服を着る音がする。いつもなら、腕まくらして、抱き締めてくれる雅輝の温かさを感じることもない。背中がひんやりと冷たい。

「アトリエ、結婚したら、売るつもりだからだ。住むとこ、なるべく早く見つけてよ。」

 杏樹は何も答えない。

「もう、行くから。……いいやつと幸せになってよ。」

 杏樹は、重たい体を少し浮かせ、扉から出ていく雅輝の背中を見つめた続けた。

 翌日、ラポールの副社長と結城財閥の一人娘の婚約の話題が、メディアを独占した。
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