俺様御曹司による地味子の正しい口説き方

私が来たときはまだ誰も出社するような時間ではなかったが、そろそろ誰が来てもおかしくないほど時間も立っていた。


華ちゃんは、白いシャツの入ったショップの袋を自分のロッカーに投げ入れ、『場所を変えるよ』と秘書課へ私を連れ出した。

眼鏡をかけていなかったため、私の手を引きながら秘書課の給湯室横の非常階段へ腰掛け、「秘書課の人は誰も階段なんて使わないから」と、声を潜めて「で?」と聞いてきた。

その様子に心配を掛けた申し訳なさと、華ちゃんの力強い様子に感情が落ち着いていった。

「華ちゃん。……すみません。大丈夫です。落ち着きました」

スン、と鼻を啜りながら目尻に溜まった涙をタオルで拭き取り、鞄から眼鏡を取り出してかけ直した。

こんな時殆ど化粧をして居ない自分にほっとした。
そうそうこんな事あっても困るけど。


「取り乱してしまってすみません」

並んで階段に腰かけて、学生のようだと少し笑った。

「いつからこんな事になってたの!ちゃんと言いなさいって言ったでしょ?小早川君は?知ってるんでしょうね!」

捲し立てるように詰め寄る華ちゃんにびっくりしながら、戸惑うように首を横に振った。

「杏!?」

華ちゃんの目をじっと見つめながら、まずはごめんなさいと頭を下げた。

「華ちゃん。先週のお泊まり会の時は本当に何もなかったんです。でも、この一週間で色んな事がありすぎて……それを今日相談したかったんです」

「ねぇ。大丈夫なの?」

心配そうに眉を寄せる華ちゃんに申し訳なくて、謝ることしか出来なかった。

< 210 / 246 >

この作品をシェア

pagetop