うっせえよ!





そんな東京の海と言えば、東京湾じゃないだろうか。



太平洋に面した東京湾というものを私はよく知らない。



どこがどう東京湾で、どこからが太平洋になるのか、その線引きはまるで大人と子供の境界線のように曖昧だ。



その曖昧な東京湾に連れてこられるとばかり思っていた。その東京湾で人生初の海釣りをするものばかりだと思っていた。



しかし、誠司さんが拾ったタクシーで向かった先は、なぜか品川駅だった。



戸惑う私を他所に、誠司さんはどんどん先へ歩いていく。時々、振り返りながら私がいることを確認し、また前へ歩を進め、また振り返り、だるまさんが転んだ状態。



思わず心の中で「だるまさんが転んだ!」と呟いてみる。そのタイミングで誠司さんが振り返ると、嬉しくなって思わず笑みがこぼれた。



「お前、何ニヤニヤしてんだ? 気持ち悪い。」



……うっせえよ!




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