うっせえよ!
「ほら、誠司さん。ネクタイ、曲がってますよ?」
こうやってネクタイを直してあげていると、ああ、なんだろう……。
「誠司さん。」
「なんだ? りん。」
「私たちって、結婚したんですよね?」
「当たり前だろ? 今日からは常盤じゃなくて、柏原になるんだぞ? 柏原凜。」
柏原凜かあ。
そうか。今日から私は柏原凛なんだ。
柏原凛として、夫である柏原誠司を見送るんだ。
柏原凛……なんだか、この世で一番素敵な名前に思える。
「でも、仕事中は、あくまで『大木りん』ですからね? そこはちゃんと守ってくださいよ?」
「わかってるよ。編集長にも発破かけられてんだ。『イチャついて仕事にならないようなら、いくらまことちゃんでも許さないわよ? 私にかかれば、ハニートラップくらいわけないんだからね?』ってさ。」
「……人目を盗んでキスとかダメですよ?」
「……お前こそ、そんなことするなよ?」
「し、しませんよ……。誠司さんじゃあるまいし。」
「馬鹿! 大体キスする時は、りん。お前からじゃないか。」
「そりゃ……。」
そりゃそうだ。
だって……。
「……だって、誠司さんからしてくれないからじゃないですか! もう、どこまで鈍いんですか?」