うっせえよ!
「誠司さん。二日酔い、大丈夫ですか?」
姿見の前で歯ブラシを咥えながらネクタイを結ぶ誠司さんは、「ああ、大丈夫。」とは言ったが、鏡越しに映るその表情は、完全に疲れ切っていた。
気の毒だ。これから仕事なんて。
私なら絶対に無理だ。こうして立って、誠司さんの背中を見ているだけでもクラクラする。
今日は絶対仕事なんてしないし、無理矢理しようとしても、はかどらないに決まっている。
それなのに、誠司さんは満身創痍の中、仕事に行く。
歯磨き粉でえづくような状態だ。
こんな状態で、本当に無事に仕事が務まるのだろうか、帰って来れるのだろうか。
心配だ。
「誠司さん、あれだったら、休んでもいいんですよ? 私、編集長に電話しますから。」
「馬鹿。そんなことしてみろ。『まことちゃーん。あんたがこれまでに口説いてきた女のこと、りんちゃんに全部話しちゃうよ?』なんて脅されるに違いない。」
「そうですよね……。」
って!
「おい!」
「痛っ! 何すんだよ!」
「何すんだよ! じゃないですよ! 何サラッと馬鹿なこと言ってんですか! そんなにやましい過去があるんですか? 妻の……。」
妻の……。
「……妻の私に話せないような、何かがあるんですか。」
思わず語気が弱まった。
「冗談に決まってんだろ。あるわけねーだろ? 俺が愛してんのは、りんちゃん。キミだけだよ?」
そう言って、抱きしめてくる誠司さんの眉は下がっている。この癖。これは嘘をついている時の顔だ。
まったく……でも、こう朝から抱きしめられたりなんかすると、全部許してしまいたくなるから、ダメなんだ。
普段から誠司さんのことをダメ男だとか言ってるけど、
ホント、私も単純でダメ女だ。