うっせえよ!
私たちの喧嘩は花の名社では、すっかり名物となっていた。
誠司さんとは、「エゴイスト」がもうすぐベターセラーかと囁かれていた頃からの担当で、初めは私に対して、「先生の『エゴイスト』には感服致しました!」と慇懃な対応だった。
それが初めて初稿を持って行った日から、二稿、三稿、四稿と打ち合わせの回数が増していくごとに、態度は豹変し、4年経った今では私のペンネームを文字って、「キリン」と罵ることさえある。
まるで、新婚当初は家事を率先して手伝ってくれてたのに、歳が経つにつれて頼んでもやってくれなくなったダメ夫のようだ。
結婚詐欺ならぬ、担当編集詐欺じゃないかと思う。DVならぬパワハラかモラハラじゃないかと思う。
「とにかく、これは受け取らんからな!」
誠司さんが原稿を押し付けてきた。
「嫌です! 受け取ってくれるまで帰りませんから!」
同じように誠司さんに原稿を突き付けた。
「受け取らん!」「嫌です!」の攻防が続き、激化すると、群衆たちはパブリックビューイングでサッカー観戦をしているサポーターのような盛り上がりを見せる。
「いいぞ! 柏原!」
「大木先生も負けるなー!」
隣のテーブルで、緊張な面持ちで編集者を待っている、持ち込みの小説家の卵くんは、何事かと思っていることだろう。でも、とにかく売れるものを出したい考えの編集者の言いなりになっていたら、そこには独創性も、創造性も失われる。引いてはいけないのだ。
いい? 卵くん。言いなりになってはダメ。こうやって真っ向からやり合わないと、いいものなんてできないんだからね? これは、私なりの新人教育でもある。