うっせえよ!
結局、誠司さんが原稿を受け取り、それを目の前のシュレッダーにかけたところで、攻防は終わった。
仮にも大ベストセラー作家の原稿をシュレッダーにかけるなんて、どうかしてると思うが、これで5度目だ。シュレッダーにかけるときは、大体、八稿くらいまで書かされる。今回はよっぽどひどかったらしい。
「というわけだから。今言った感じで20日までに書いてこい。」
膨れっ面で背けた私の顔を誠司さんは、頭に手を乗せ、無理矢理軌道修正した。
「いいな!?」
「……はい。」
私の返事を聞くなり、誠司さんは右手のロレックス・サブマリーナデイトで時間を確認し、タブレットPCを片手に去っていった。
その背中にあっかんべーをしてやった。イライラする。こんな時は、お酒で忘れるに限る。
私はスマホを取り出し、藤原に電話をかけた。
「あー、大木先生ですか。どうしましたか?」
「あんた、今日休みだったわよね? 今すぐ来て! いつもの居酒屋!」
「ええ、いいですよ。」
藤原の返事に少し間があった。露骨に嫌な顔をしたのが電話越しからもわかる。この後、こいつに回すはずだった原稿は、締め切り最終日までは死んでも渡さない。
「遅れたら、日本酒飲むから。」
藤原は慌てて、「すぐ行きます!」と電話を切った。私が日本酒を飲めば、手が付けられなくなることを重々わかっているのだ。