うっせえよ!





渋々、インスタントコーヒー(本当は来客用のコーヒーはサイフォンで入れるのだが、めんどくさいし、そんなことをする義理はない。)を淹れて、対面に座った。



「それで? 理由を訊かせてもらえますか?」



私はコーヒーを一口啜って、スーツを脱ぎ始めた誠司さんに訊いた。



「ああ。今日から俺、ここで暮らすことにしたから。ほい、土産。」



土産と言って渡されたのは、マカダミアンナッツだった。



「ハワイにでも行ってきたんですか? あの短時間で……って、土産じゃないですよ! そもそも、ここで暮らすってどういうことですか! ちょっと! 勝手に着替えないでください!」



もう何が何だかわからない。今日は一体何月何日の何曜日でどういう記念日なのか思わず考えたほどだ。



「ああ、それは妹の土産。着替えの理由はここで暮らすから。そんでもって、お前が今、金子みすゞの詩のように不思議でたまらない理由。それを簡潔に言うとしたら……。」



「……言うとしたら?」



「お前に恋愛小説を書かせるためだ。」



誠司さんはズボンを脱ぎながらサラリと言った。私は思わず目を背けた。




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