哭く花
私はしばらく、そのアジサイのそばにしゃがんで、
じょうろを手に、行ったり来たりしながら、
花に水をあげる先生の姿を見ていた。
「先生もな」
今まで黙っていた先生が口を開いた。
「生まれた時の美岬に会ったんだ」
そう言って、小野山だけじゃないんだぞ、と、にかっと笑った。
「そしてな、」
と先生は付け加えた。
「美岬、と名前を付けたのは、俺だ」
「え?」
先生の顔を見あげると、
先生はどこか誇らしげに、遠くを見つめていた。
「岬の上の病院でな、朝日が登る頃に俺達4人で赤ん坊を囲んでな」
「5人で朝日を見た。美しい岬からの景色だった」
少し遠い目をする先生。
その瞳には懐かしみが込められていた。
「先生私ね、」
私もたくさんのことを思い出しながら
先生の名を呼んだ。
「私この名前大好きなの、先生に呼ばれるととても落ち着く」
不思議な力。
そう呟くと、
先生は、そうだな、とまた遠い目をして幸せそうに微笑んだ。
水撒きの心地よい音と、
二人だけの空間
ああ、もう二度と、
大切なものを失いませんように。
私は花の中に包まれた、その一分一秒を噛み締めた。