町はずれの映画館
 そう思いながら、またぼんやりしていると、急に圭に腕を持たれて端の席に座らされる。

「な……」

「誰ともすれ違わなかったのに、結構人がいるんだね」

 隣りに座り足を組んだ圭に、美奈は眉をしかめただけで無言で対抗する事にした。

 沙織たちは中央の席を確保したらしい。

 手を振る沙織に手を振り返したら、その手に缶ジュースを乗せられて慌てて受け止める。


「…………」

「何か言いたそうにしているね」

「炭酸……飲めません」

 渡されたジュースはサイダーだった。

「人におごってもらった時は、素直にありがとうって言った方がいいよ」

 絶対に言いたくない。

 そのジュースを鞄にしまおうとしたら目の前に手を出された。


「何ですか?」

「飲まないなら返して」

「……はい」

 ジュースを突き付けると、替わりの缶ジュースが手渡される。


 今度は美奈でも飲めるオレンジジュースだ。


「……君って、からかい甲斐があるよね」

「嬉しくありません」

 反論した途端、場内の照明が暗くなった。


 静まり返った場内の中で、映画を見る際のマナーとこれから始まるらしい映画の宣伝が流れ始める。

 微かにジュースのプルタブを開ける音や、お菓子の袋をそっと開ける音が混じり、美奈の背後では扉が開いたり閉じたりする音がして通路を誰かが通って行く影が見える。

 席がどんどん埋まっていった。


 見れば見るほど、普通の映画館と変わりない。

 幽霊が出るなんて、また圭にからかわれたんだろうか?


 そして始まった映画は……




 確かにラブストーリーだったが、ドラマも何もない、だだひたすらに平凡な恋愛映画だった。









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