町はずれの映画館
3.
*****



 幽霊が出る。

 それは有名な話らしいが、何事も起こらない。

 映画のエンドロールが流れ終わり分厚いカーテンが下りてくると、照明がついて場内がゆるゆると明るくなった。

 少しホッとして辺りを見回すと、他の客は全て帰った後だった。

 映画に集中していた記憶はないので、幽霊話に余程緊張していたのだろう、人の流れにも気がつかないでいたようだ。


「何もありませんでしたね」

 そう言いながら隣りの圭を見ると、圭は難しい表情で腕を組んでいる。


「……どうかしましたか?」

「あ……。いや、なんでもない」

 ぱっと普段通りの飄々とした圭に戻るのと、沙織がニコニコと近づいてきたのは同時だった。


「お疲れ~。映画、なんか思ってたより怖くなかったね~」

「怖くない……?」


 あの恋愛映画の、どこに怖い要素があったんだろう?

 不思議に思いながら立ち上がり、後ろを見て首を傾げた。


 がらんとした座席。


 何もない壁。


「あれ? 後ろにもドアがあったよね?」

「何言ってんの。うちらこっちから入って来たじゃない」

 沙織が示したのは、美奈達が座った席からすぐのドア。

 確かにそこから場内に入ったが、場内が暗くなってからも美奈は何度も背後から出入りする音を聞いていた。


「……席、けっこう埋まってたよね?」


「え? 私たちの他に、誰もいなかったよ?」


「…………」


 真っ暗だった訳ではない。

 美奈はスクリーンの光に照らされたいくつもの人の頭を見ていたし、それに、入って来た時にも座席に座っていた人がいたはずである。



「とりあえず、出ようか?」


 圭はそう言うと、冷たくなった美奈の手を取って歩きだした。

 正直言って助かったと思った。場内から連れ出してくれる手は温かくホッとさせてくれる。

 何より、その力強さは安心出来た。
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