今宵、君と月の中で。
最初に小さな異変を感じたのは、六月も残り数日という頃。


その日、私は四人のクラスメイトに頼まれて、放課後の教室で期末テストの勉強を教えていた。


クラスメイトと言っても、彼女たちは校則違反なんて気にもせずに髪を染めているような派手なグループで、地味な私とは時々しか会話をしないような関係だったから、昼休みに『勉強を教えてくれない?』と声を掛けられた時はとても驚いた。


それでも、頼られるのは悪い気はしなかったし、四人から一斉に頼まれてしまっては断りにくいということもあって、『塾の時間までなら』という約束で承諾をした。


最初は他愛のない会話をしたり、四人が問題を解いている間に手持ち無沙汰になれば私もテスト勉強をして、わりと有意義な時間を過ごせていたと思う。


ただ、二十分もしないうちに四人ともやる気を削がれたかのように雑談ばかりになってしまい、その間もひとりで黙々とテスト勉強をする私を余所にずっと会話が途切れることはなかった。


それから三十分以上が経った頃、彼女たちがようやく勉強に戻ったかと思えば同じパターンの問題で何度もつまずいて先に進まず、私が帰らなければいけない時間になっても最初に開いていた問題集は一ページの半分も終わっていなかった。

< 12 / 233 >

この作品をシェア

pagetop